GISとは、地理情報システム(Geographic Information System)の頭文字で、地図上のその位置が持つ情報を抽象化して表示するシステムです。
情報とは、例えば建物や道路等の構造物の情報、標高や河川等の地形の情報、ある範囲の人口等の統計情報等、位置に関連するものでしたら何でも扱えます。
GISを使用してこれらの情報を抽象化して地図上に表示することで、構造物同士の関係や、その土地が持っている特徴等を視覚化し簡単に把握することが可能になります。
以下のように町丁ごとの面積と人口の一覧表があった場合、その地域に土地勘がある人の場合、地域の人口分布の傾向を把握することができるかもしれません。
しかし、そうでない人の場合、傾向を読み取ることは難しいと思います。
しかし、地図上に表示してみると、傾向を把握しやすくなります。
以下の画像では、人口密度に応じて町丁ごとに色をつけています。人口密度が多い町丁ほど濃い赤色で表現しています。
中心部の人口密度は低く、周辺に広がるように人口密度が高い地域が分布しています。
このように、文字だけでは把握しづらい情報も、GISを用いて地図上に表示することでひと目で把握することが可能になります。
情報源としては、政府等により公開されているデータや顧客情報等自分で収集したデータ等を使用できます。
公共分野では、 災害時の避難マップの作成、自然環境評価、交通機関のメンテナンス等で活用されています。
また、人口や顧客ターゲット層の分布を地図上に見える化することができるため、集客施策立案や出店分析等のマーケティング分野等でも有用で、活用シーンは多彩です。
このようにGISでできることはたくさんありますが、基本的な機能は大きく以下の3つに分けられます。
1.地図に情報を表示すること
2.地図上の情報を重ねること
3.地図上の情報を集計すること
この記事では、この3つの基本的なできることを、実際に使用例を示しながらご説明します。
- GISという言葉を初めて聞いたのでちょっと調べてみた
- GISの使い方を勉強しなければいけないので概要を知りたい
- なにか集客に使えるツールが無いか調べてみた
- おもしろいツールのことを知りたい
こういう方におすすめです。
地図に情報を表示すること
最も基本的な「GISでできること」は、「地図に情報を表示すること」です。
位置の情報を地図上に抽象化して表示することで、情報を俯瞰的に理解でき、客観的な判断を行ったり戦略をたてたりすることが可能になります。
飲食店に飲料を販売している会社に勤め、営業活動にGISを使用する架空の営業マンを例としてGISの「地図に情報を表示する」機能を紹介します。
建築物や交通機関などの構造物を地図上に表示する
お店や学校などの建築物、鉄道や道路などの交通機関といった構造物を地図上に表示します。
ここでは、会社の位置(★)と線路の情報を表示しました。なお、線路の位置情報は公開されています。
地形情報や人口などの統計情報を地図上に表示する
海や河川などの地形、自治体の区画などを地図上に表示する事ができます。 そして、統計情報(人口など)に応じて色を付けたりすることが可能です。
ここでは、東京都豊島区の範囲と鉄道路線、駅、そして小地域(町丁字)毎の人口を表示しました。
地図に表示した情報は、その情報に応じて表示方法を好きなように変更することができます。 この地図では、駅の利用者数に応じて駅の位置を示す緑の○の大きさを変更して表示しています。
人口については、赤色の濃淡で表示しており、赤が濃くなっている地域ほど人口が多い地域です。
このように表示方法を工夫することで、情報が持つ傾向がわかりやすくなります。
年齢性別の人口や職業別人口、産業別事業者数等、非常に多くの情報が誰でも無償で使用できるデータ(オープンデータ)として整備されています。
取引先店舗の位置など手持ちのデータを地図上に表示する
住所や緯度経度など位置を示す情報があれば、手元にある情報をすべて地図上に表示する事ができます。 表示した情報は、好きなデータのみを表示させる事ができ、表計算ソフトのexcelのフィルター機能のように特定の情報だけを抽出する事ができます。
例として、先ほどの会社の取引先店舗(■)を、地図上に表示しました。
完成した地図を眺めていると、利用者が多い駅の位置や、生活している人の多い地区、取引先店舗の分布、そこまでの自分の会社からの距離をわかりやすく把握することが可能になりました。
「駅の利用者の割に取引先が少ない地区にはもっと攻勢をかけよう!」とか、「この地区はこれ以上増えなそう。これからも契約を継続してもらう施策を考えよう!」とか集客のためのアイデアが浮かんだかもしれません。
地図上の情報を重ねること
続いて紹介する「GISでできること」は、「情報を重ねる事」がです。前項では 「地図に情報を表示する事」を紹介しましたが、地図上に表示した情報をさらに重ね合わせて表示する事ができます。
地図上の情報を重ねると、情報同士の「距離の関係」や「間隔の関係」等、「情報の関連性」を見える化できます。
チラシ配布方針の検討にGISを使用する架空の飲食店を例としてGISの「地図に情報を重ねる」機能を紹介します。
チラシを配布して新規顧客を獲得したい個人営業の飲食店がGISを活用する
この飲食店の現状の主な顧客層は日中のサラリーマンですが、新規顧客層として子連れのファミリー層を呼び込みたいと考えています。
新しくお子さんが喜ぶような料理シリーズをメニューに加え、周辺にチラシを配布し宣伝することにしました。
ただし、予算は限られています。
少ない費用でできるだけ効率を上げるためにGISソフトを利用してお店に呼び込みたいターゲット層が多い地域を抽出し、そこへ重点的にチラシを配布することとしました。
お店に呼び込みたい層は、「ニューファミリー層」です。
この層が含まれる属性として考えられたのは、「18歳未満親族がいる世帯」「民営借家世帯」「小中学校から近い」の3つであり、これらの情報を重ね合わせる事で得られた結果を重点的なチラシ配布範囲を設定するための判断材料とします。
また、車両で来られるお客様も想定して、車で15分圏内である店舗から半径3kmの範囲を商圏として設定しました。
2つのターゲット層が共に多い地区を見つける
↓
それぞれの世帯で一定数以上の世帯が生活している小地域のみを抽出し、さらに両方の基準が該当する小地域のみを抽出しました。
小中学校から近い地区を見つける
小中学校から半径800mの範囲を描き、ターゲット世帯が多い地域に重ねてみました。
すべてに該当する地区を見つける
店舗の商圏内の小中学校近くで、設定した世帯数の基準に該当する小地域です 。※「小地域の重心が小中学校800mに入っている」かつ「店舗商圏に一部が含まれている」小地域を抽出しています。
以上のような方法で店舗周辺の「民営借家世帯」と「18歳未満の家族がいる世帯」が多く、「小中学校から近い」地域を商圏内で抽出し、そのような地域が店舗の南西方向と北東方向に多く分布していることが確認できました。
これらの地域が、お店に呼び込みたい層である「ニューファミリー層」が多く生活している地域と判断し、チラシを重点的に配布する事としました。
地図上の情報を集計すること
前項までに「地図上に情報を表示する事」と「情報を重ね合わせる事」を紹介しました。
ここでは、表示して重ね合わせた位置に関する情報を集計する事。そして比較する事について紹介いたします。
これまで取り上げた内容では、
- 「地図上に情報を表示する事」:行政区画、公共交通機関、商業施設、人口の統計情報
- 「情報を重ね合わせる事」:行政区画、生活形態の統計情報、公共施設
が、位置に関する情報です。
これらの情報を地図上に表示することで、視覚的に判別する事が可能となり、その地域が持つ情報やその関連性の把握が容易になります。
前項では、架空の飲食店がこれらの機能を使い集客施策を検討する例を取り上げ機能の説明をいたしました。
今回は、地図上に示し視覚的に判別するだけでなく、統計情報を集計しグラフ化することで、更に細かく地域が持つ情報を把握する方法を紹介いたします。
東京多摩地区の2大拠点「立川」と「八王子」の特徴を比較する
東京都本土部のうち東京23区以外の地域は多摩地区と呼ばれています。
23区の西方に位置し、26市3町1村の30自治体からなり、多摩市、国分寺市、福生市等の自治体が位置しています。
多摩地区の内、東側の自治体は23区と連続的な市街地を形成していますが、そこから距離がある西部では独自の経済圏を形成しています。
その多摩地区西部の中心として存在している2つの大きな市が、八王子市と立川市です。
八王子市は約60万人の人口を抱える中核市、一方立川市は20万人弱です。八王子市は、江戸時代の宿場町として栄え、その後も長きに渡り多摩地区の中心都市として君臨していました。
ところが、公共交通機関の整備等に伴い国の機関が八王子市から立川市に移転する等、2000年代以降立川市の拠点性が増しており、現在では八王子市と立川市は多摩地区の2大拠点となっています。
そこで、GISを使用し、両市の業務中心であるJR八王子駅とJR立川駅の周辺人口を集計し、それぞれの特徴を比較してみることとします。
八王子駅と立川駅周辺の人口を集計する
まずは、両駅を中心に徒歩約10分強の範囲である半径1km圏内に居住している人口を集計します。
八王子駅と立川駅の半径1kmの範囲に、人口に応じて色をつけました。 ただ、このままの状態だと両駅の人口がどれくらい違っているのかはわかりづらいです。
例えば新規出店場所を検討のため複数地点の想定顧客するを比較するような場合、もっと詳細な情報を得られたほうが有用かもしれません。
JR八王子駅周辺の人口のほうが多い
GISで人口を集計しexcelを使用してグラフを作成しました。
両地域の人口ピラミッドを作成し重ねました。色がついて無い棒グラフが立川駅周辺の人口です。
すべての年齢で男女ともに八王子駅周辺の方が人口が多く、特に20代の人口で差が大きい事がわかります。
八王子市には大学が多く立地しているため、駅近くに学生が多く生活しているのかもしれません。 この集計結果から八王子駅を有する八王子市の方が栄えているといえるのでしょうか?
昼間の活動人口を集計する
そこで、以前の記事で紹介した「昼間の活動人口」を集計します。
上で示したのと同様に、駅から1kmの範囲に「昼間の活動人口」に応じて色をつけました。
このケースでは、このままでも立川駅(北東の駅)が人口が多い(色が濃い)事がわかります。
夜間人口では八王子駅周辺が多かったのに対して、昼間の活動人口は立川駅の方が多いようです。
就業者の産業毎の人口をグラフを作成して比較してみると、「運輸業、郵便業」、「公務」、「電気・ガス・熱供・水道業」では八王子駅周辺が多いですが、それ以外では立川駅周辺が多いです。 特に小売業やサービス業では、立川駅が八王子駅を大きく上回っており、立川駅周辺の商業活動が活発であることが明らかになりました。
青が八王子駅周辺、赤が立川駅です。
昼夜人口比率を比較する
最後に、八王子駅周辺と立川駅周辺の夜間人口と昼間の活動人口を集計し、比較してみます。
昼夜間人口比率(昼間の活動人口/夜間人口)を算出し比較を行いました。赤色が強い濃い方が夜間人口に比べて昼間の活動人口が増加している地域です。
立川駅周辺は、昼間の活動人口が夜間よりも倍増しており、変化率は八王子駅周辺に大きく差をつけています。
昼間の人口集積は立川駅の方が高く、多摩地区の商業面での拠点性は、八王子駅周辺よりも優位な状況になっているのかもしれません。
このように、GISを使用して情報を集計すると、特定の範囲の情報を集計することができ、それで得られた数字の情報を元にして、感覚ではなく裏付けのある集客戦略を立てる事が可能になります。
続き→GISでできること(2)-もう一歩踏み込んだGISの活用方法の概要がわかる