GISでできる3つのことを紹介した前回に続いて、ここではもう一歩踏み込んだGISの活用方法を紹介します。
(前回の記事)GISでできること(1)-GISとはなんだろう?
- GISでなにかおもしろいことができそう
- GISでできる分析についてざっくり知りたい
- オープンデータとは?
- どのようなオープンデータがGISで使用できるのか?
こういう方におすすめです。
分析する事
GISを使って情報を分析することについて紹介します。
地図と情報を使っていろいろなことができるGIS。これまでにGISの機能を3つ紹介いたしました。 (「地図に情報を表示する」→「地図の情報を重ね合わせる」→「地図の情報を集計する」 )
さらに応用的な活用方法として「分析」があります。 集計した情報を数学的な計算や統計解析を行うことで、新しい情報が見えるようになります。
今回は、4つの代表的な分析について概要を紹介しますので、もう一歩踏み込んだGISの世界を覗いてみましょう。
カーネル密度推定法
この方法は、地図上の「ポイント(点)」の密集状態を計算します。
ここで少しGISのデータの扱いについての補足をします。
GIS上では、地図上に存在する情報を主に「ポイント(点)」と「ポリゴン(面)」と「ライン(線)」のどれかで表現します。
例えば、建物であれば「ポイント」。公園や池であれば「ポリゴン」、道路や河川であれば「ライン」といった具合です。
カーネル密度推定法は、このうち「ポイント」の情報を対象とするものです。
なお、上の3つ以外に「セル(マス目)」という表現方法もありますが、ここでは割愛し後半で改めて説明します。
岡山県の小学校の分布を例として使用します。
店舗や顧客住所をもとに作成したGISの「ポイント」データをカーネル密度推定法で分析することで、店舗が密集しているエリアや、顧客を開拓できていないエリアを見える化する事ができます。
ボロノイ分析
この分析は、地図上の「ポイント」のばらつき具合を計算します。 「ポイント」と「ポイント」の中間地点を計算するシンプルな分析です。
同じく岡山県の小学校の分布を例として使用します。
このように、「ポイント」と「ポイント」の中間地点で分割された「ポリゴン」がたくさん作成されます。
各「ポリゴン」の中心部に計算の元となった「ポイント」があり(この例では小学校です)、「ポリゴン」が大きいほど隣り合う小学校から距離がある、つまり孤立している学校である事が一目で見えるようになります。
さらに、各「ポリゴン」の面積な外周の長さを測定することで、隣接地からの孤立具合を数字で確認することも可能です。
ネットワーク解析
この方法は、地図上の「ライン」の長さや繋がりを計算します。
道路や河川を示す「ライン」上の一点からの長さを、直線距離ではなくたどって行くときの距離を計算します。
解析をする事で、起点となる一点からのある一定の距離の範囲を見える化することができるようになります。
さらに移動速度を設定すると、●分間で到達できる範囲、例えば「店舗からバスで●分の範囲」などを地図上に表示することが可能です。
(関連記事)徒歩で到達できる範囲を調べる
(関連記事)バスを利用して行ける範囲を調べる
近傍解析
この方法は、地図上の「ポリゴン」の密集状態を計算します。 先に解析結果の図面を見ていただきましょう。
半径800mの範囲内の緑地面積率を解析した結果です。 そして解析の元となった情報はこちらです。
緑色の場所が樹林や草地等の緑がある範囲です。
この情報をもとに10mごとに、各地点から半径800m範囲内の緑地の割合を計算したものが最初の図面になります。
この解析では、冒頭で少し触れたもう一つのデータ表現方法「セル」が登場します。
「セル」というのは、デジタル写真の画素、CG(コンピューターグラフィックス)のドットなどと同様の概念です。
次の図では、上の図面の一部を拡大して表示しました。
小さな四角がいっぱい並んでいるのがわかります。今回は10mの「セル」を作成し解析を行いました。
地図上に配置したたくさんの「セル」の中心からそれぞれ半径800mの範囲の緑地率を計算し、緑地率に応じて「セル」を彩色したのが最初の図面です。
標高や降水量など連続的に広がっている情報を扱う際によく使われるデータの表現方式です。
オープンデータ等を活用する事-GISで使える代表的な無償データの一覧
オープンデータ等のGISで使える公開データについて紹介します。
オープンデータなど無償で公開されているデータがたくさんあります。
オープンデータはGISに固有のデータではありませんが、行政情報の約8割は地理空間情報に該当すると言われています。
つまり、地理空間情報の集計や分析等ができるGISでは大部分のオープンデータを活用することが可能です。
GISをより有効に活用するために不可欠な「データ」についての概要を知ることができます。
オープンデータとは
オープンデータとは、「1.機械判読に適したデータ形式」であり「2.二次利用が可能な利用ルールのもと提供されているデータ」と定義されており、簡単にいうと二次利用が可能な電子データのことです。
平成24年7月に国家戦略として「電子行政オープンデータ戦略」が取りまとめられ、政府や地方自治体等が保有する公共データをオープンデータとして公開する取り組みが進められています。
政府が公開しているオープンデータのカタログサイト、DATA.GO.JPというものがあります。
このサイトのデータ一覧ページがこちらです。
このページではオープンデータのうち国の組織で作成・管理等がなされているデータ2万件以上がカタログ化されています。
更に、こちらのページでは、上でカタログ化されていない地方公共団体のオープンデータの公開先の一覧も示されており、全国の自治体等合計400以上のサイトが紹介されています。
こんなデータがオープンデータです
どのような公共データがオープンデータ化されているのか、カタログ化された膨大なデータの中からいくつかピックアップしてみましょう。
■歩行空間ネットワークデータ(リンク)
段差や幅員、スロープなどのバリア情報を含んだ歩行経路の空間配置及び歩行経路の状況を表すデータです。
北は旭川地区から、南は長崎地区まで全国の25地区のデータがエクセル形式等で公開されています。
GISを使用して地図上に表示してみました。
青色の線が歩道で、手すりやスロープがある場所は赤色や黄色で示しています。ピンク色のダイヤマークはトイレがある場所です。
■国際観光ホテル整備法に基づいて登録されたホテル・旅館の一覧(リンク)
観光庁に登録された、国際観光ホテル整備法に基づき、訪日外国人旅行者が安心して宿泊できる施設として一定のサービスレベルが保証されたホテル・旅館の一覧のデータです。
テキスト形式(CSVファイル)で公開されており、全国の947箇所のホテル・旅館の住所や電話番号、ホームページのURLが含まれています。
上の図のように、一定のサービスレベルが保証されたホテル・旅館の位置が明らかになります。
データには施設毎の緯度経度の情報まで含まれているので、ピンポイントでホテルの場所を把握することができます。
■無料公衆無線LANスポット(リンク)
観光庁が開設している、訪日外国人旅行者向け無料公衆無線LANスポット等を紹介するウェブサイト内の「無料公衆無線LANスポット」のデータです。
テキスト形式(CSVファイル)で公開されており、全国の60080箇所のwifiスポットの住所や利用時間回数等、SSID等が含まれています。
長崎市周辺の外国人向け無線LANスポットの位置を示しました。
このデータもスポット毎の緯度経度の情報まで含まれているので、ピンポイントで場所を把握することができます。
■社会教育調査_平成27年度_統計表_博物館調査(リンク)
文部科学省が作成・管理等をしている、博物館等社会教育行政に必要な社会教育に関する基本的事項を調査し,社会教育行政上の基礎資料を得ることを目的とした基幹統計調査である社会教育調査の結果です。
博物館、図書館、青少年教育施設、民間体育施設、生涯学習センター等の博物館類似施設についての多数の統計調査結果が、エクセル形式で公開されています。
統計項目は、施設の数や入館者数などから、土地面積や開館時間数別の施設数等多彩です。
都道府県毎の人口1万人あたりの施設数を地図上に示してみました。
人口の母数が多い都道府県の方が少なく、比較的人口が少ない地方で多くなっています。
ただしその中で施設数が最も多いのは人口ランキング16位の長野県となっており、社会教育に熱心な県ということなのでしょうか。
このように都道府県単位の統計結果をGISを使用して地図上に示すだけでも、地域の傾向を見ることができます。
■交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締状況について(リンク)
交通事故の発生件数や、事故による負傷者数、死亡者数などについての統計結果です。
都道府県毎の人口一万人あたりの交通事故の発生件数を地図上に示してみました。
上のデータと同じく人口の母数が多い都道府県の方が少なく、比較的人口が少ない地方で多くなっています。
トップ3は佐賀県、静岡県、宮崎県の順番となっています。
■来日外国人犯罪の検挙状況(統計データ)(リンク)
警察庁刑事局組織犯罪対策部国際捜査管理官が作成した「来日外国人犯罪の検挙状況」の平成27年版のデータです。
pdfとエクセル形式で来日外国人犯罪の検挙状況の統計結果が集計されています。
これまで紹介したデータと異なり地理空間情報ではなく集計表です。
オープンデータは、全てが位置等と関連づいた地理空間情報ではなく、あくまで2次利用が可能な状態で公開された公共データであるため、このような集計表や報告書等のデータも多くカタログ化されています。
GISですぐに使える代表的な無償データの一覧
国の測量成果などGISですぐに使えるファイル形式で公開されている代表的なデータの一覧を紹介いたします。
■基盤地図情報
この地図は、国土地理院発行の基盤地図情報の測量成果を使用したものです。
測量の基準点や海岸線、道路、建物の外周線といった位置を定めるための基準となる情報が含まれています。
高精度な地理空間情報が公開されていますが、一般的なGISで使用するためにはデータを変換する必要があります。
ここでは数値標高モデルを使用して、東京23区の立体地図を作成してみました。
上の画像は3秒ごとに、通常の地図と立体地図が切り替わります。
23区の中央付近に武蔵野台地の東端が存在しているのがよくわかりますね。
武蔵野台地とは多摩川と荒川に挟まれた関東平野西部の面積約700k㎡の台地で、東京都西部や埼玉県から東へ続いて東京23区まで続いています。
基盤地図情報は基本測量成果であり、利用の際には、測量法に基づき測量成果の複製又は使用の申請が必要となる場合があります。
利用する際は、サイトで利用規約を確認しましょう。
■国土数値情報
地形、土地利用、公共施設などの国土に関する様々な情報をGISデータとして整備したものです。 国土交通省国土政策局が様々な機関が作成した情報を収集し、整備しGISデータ化したものを公開しています。 多数のデータが公開されていますが、大きく下記の4つの分野を含んでいます。
・「海岸線」や「土地利用」など国土の輪郭に関するデータ
・「市町村の境界線」や「浸水想定区域」など法律や一定の目的で区分けしているエリアのデータ
・「役場」や「世界自然遺産の場所」など各地にある公共施設や観光資源などのデータ
・「駅の位置」や「バスのルート」、「空港の位置」など交通に関するデータ
国土交通省国土政策局「国土数値情報(地価公示)」を編集・加工したものです。
地価の公示価格のデータを使用して、平成30年の東京都の地価をGISを使用して地図上に表示してみました。
価格が高いほうが色が赤くバーが高くなるように加工しています。
23区の中心部に地価が高い地点が集中しており、特に千代田区近辺では非常に高いバーが密集しています。
23区の外では、吉祥寺を有する武蔵野市、多摩地域の2大都市である立川市と八王子市、東京本土部最南端都市である町田市に地価が周辺よりも高い地点が存在していることがわかります。
2次利用については、原典の作成者の方針によりさまざまでありデータ毎に説明されています。
■政府統計の総合窓口(e-stat)地図で見る統計(統計GIS)
政府統計の総合窓口(e-stat)は国が公表する統計データがまとめられているサイトで、その中の「地図でみる統計(統計GIS)」というコーナーでGISで使用できる形式のデータをダウンロードすることができます。
国勢調査や経済センサスの統計結果が小地域(町丁字)単位やメッシュ単位で公開されています。
政府統計の総合窓口(e-Stat)のデータを編集して東京23区に居住する外国人の人口を500mメッシュ単位で地図上に表示してみました。
新宿区や豊島区で特に多くの外国人が生活しており、港区や台東区、荒川区でも人口が多い地域が多く見られます。
今回は、オープンデータの説明と、GISで使用される代表的なデータの紹介を目的としましたので、サイトの説明やデータの見つけ方等の具体的な情報は省いています。
また、公開されているデータはこれ以外にも多数ありますので各種データについての説明は今後も定期的に行う予定です。
関連情報
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使用したデータ
・国勢調査「人口等基本集計に関する事項」
・国土数値情報「学校」
・国土数値情報「バスルート」
・国土数値情報「地価公示」
・環境省自然環境保全基礎調査「植生調査」
・基盤地図情報「数値標高モデル」
・OpenStreetMap